正直、この店は「安く酔えればいい」というだけの場所じゃない。
「時代のバグ」を楽しみに行く場所だ。
元町駅のガード下。
赤提灯が並ぶ、いかにもな大衆居酒屋の門を叩く。
外観は、昭和から時間が止まったような風情。
だが、一歩足を踏み入れれば、そこには現代のストレスを肉汁とアルコールで溶かす、熱狂的な喧騒が広がっている。
店内は「元祖昼のみ処」の看板に偽りなし。
昼間からワイワイガヤガヤと、まるで祭りのような活気だ。
一人客から団体まで、あらゆる胃袋がガード下の振動に合わせるように、ジョッキを傾けている。
ここで感じる最大の違和感。
それは、空間に漂う「音」のギャップだ。
耳を澄ませば、流れてくるのはglobe、広末涼子……。
「わかる人にはわかる」あの時代のヒットチャートが、令和の昼下がりを支配している。
しまいにはボンバーヘッドまでかかり出す。
この選曲センス、確信犯だ。
このノスタルジーと、目の前の「生中280円」というハッピーアワーの現実。
脳が一時的にバグり、ここが何年なのかを忘れさせる。
僕は、数多の酒場を渡り歩いてきた。
安かろう悪かろうの店は、もう卒業したつもりだ。
居酒屋メニューこそ、その店の「思想」が最も色濃く出る。
そこに現れたのが、今回のラインナップ。
「はちみつチーズピザ(750円)」から「小だこの煮付け(550円)」まで。
和洋折衷なんて言葉じゃ足りない。
もはや、メニュー表は「食の異種格闘技戦」だ。
ビジュアルが、もう、潔い。
刺身盛り合わせ(1,030円)は5種盛りで鮮度を叩きつけてくるし、
とりの唐揚げ(530円)は「とりあえず」のレベルを超えた存在感を放っている。
なんやこれ。
居酒屋の教科書を全部破り捨てて、好きなものを全部詰め込んだ宝箱か。
特に赤ウィンナー(目玉焼き入り・500円)の、あのチープで暴力的な赤色。
「炭水化物と脂の暴力」による、胃袋への宣戦布告だ。
味の分析に移る。
この店の料理は、構造が「酒を呼ぶ」ことに特化している。
串かつ盛り合わせ(730円)は、衣のサクサク感と、中の具材のジューシーさが分離することなく、口の中で一体となって溶ける。
ハッピーアワーのキンキンに冷えた生ビール(280円)で流し込めば、喉越しは最高潮に達する。
さらに、はちみつチーズピザだ。
居酒屋でピザ?と侮るなかれ。
チーズのコクと、はちみつの甘みが、酔った脳をダイレクトに揺さぶる。
焼きおにぎり(390円)の醤油の焦げた香りと、交互に食えば、もはや無限ループの完成だ。
価格設定についても、ハッキリ言っておく。
ハッピーアワーの生中280円。
これを「安い」の一言で片付ける奴は、この店の価値を分かっていない。
この喧騒、このBGM、この圧倒的なメニュー数。
そのすべてを享受して、財布を気にせず酔い潰れることができる。
その「自由代」を含めれば、コスパは最強を通り越して「解放」に近い。
ただし、注意点がある。
静かな語らいを求めるな。
洗練されたサービスを期待するな。
ガード下の轟音と、globeのハイトーンボイスの中で、己の胃袋と対話できる奴だけが来ればいい。
結論。
ここは、**「日常を忘れたい大人たちのタイムスリップ・ベース」**だ。
元町駅のガード下に吸い込まれる者たちは、皆、何かを脱ぎ捨ててくる。
そして店を出るとき、全員が同じような顔をしている。
「明日もまあ、なんとかなるか」という、適当で前向きな酔っ払い顔。
綺麗にまとめようなんて思わない。
この店の熱量を伝えるのに、気取った語彙は不要だ。
結局、ここは。
**「大人になりきれなかった奴らが、堂々と子供に戻れる唯一の場所」**だ。
あーあ、globeのせいで泣きそうになった。
そして、また飲みすぎた。
でも不思議と、後悔が1ミリもない。
これを中毒と呼ばずに、なんと呼ぶ。
それが、ごん太の罪だ。


ごん太 元町店
神戸市中央区北長狭通3丁目31−75
078-381-9906
正午〜23:00